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京都家庭裁判所 昭和47年(少)13135号 決定 1972年11月13日

少年 S・K(昭三一・三・一五生)

主文

少年を大津保護観察所の保護観察に付する。

理由

一、非行事実

少年は、

(1)  Aと共謀して通行人から金員を喝取しようと企て、昭和四七年七月六日午前一〇時ごろ、京都市中京区○○○○○○○○○所在の○○○○映画館前で、折から通行中の住所、氏名不詳、年齢二一歳ぐらいの大学生風の男を呼びとめ、「一寸顔を貸せ」と言つて○○○○○○○○○○○○○路地内に同人を連れ込み、「お金かしてくれや、お前金を出さへんのか、どうなつても知らんで」と金員を要求し、その要求に応じなければ、如何なる危害を加えるかも知れない気勢を示して同人を畏怖させ、同人に現金二、五〇〇円を交付させ、

(2)  公安委員会の交付する運転免許を受けないで、昭和四七年七月二九日午前一一時五〇分ごろ、京都市南区○○○○○○○×番地先路上で、第一種原動機付自転車を運転したものである。

二、法令の適用

(1)  刑法第二四九条第一項

(2)  道路交通法第一一八条第一項第一号

三、保護観察処分に付した理由

(1)  本少年の第二九〇二号事件は、昭和四七年八月二二日共犯少年のAとともに京都府五条警察署からぐ犯事件として、当家庭裁判所に送致されてきたものである。しかしながら、同号事件記録を精査するに同記録中の司法警察員に対する少年および共犯少年の供述調書、司法巡査作成の「ぐ犯少年調査報告書」と題する書面、領置調書に押収してある現金二、五〇〇円(昭和四七年押第一七五号の一)を総合すると、なるほど被害者についての詳細は不明であり、被害届も出されていないけれども、前記二の(1)の恐喝の事実を認定することができる。このほか少年は前記二の(2)の犯罪を犯したものである。

(2)  ところで少年法第三条第一項は、審判に付すべき少年として、犯罪、触法、ぐ犯の各少年を規定しているが、前二者の場合は少年のなした行為を審判に付すべき事由とするのに対し、ぐ犯少年の場合は、青少年の健全な育成と刑事政策的見地から、犯罪ないし触法行為には至らないが、その一歩前の状態にある少年を捕捉し保護せんとする制度であるから、本少年のように既に前二の(1)、(2)記載の犯罪をなしていることが認められる以上は、もはや少年をぐ犯少年として処遇することは許されない。

そして、本件第二九〇二号事件のように警察官からの送致書にぐ犯事由として記載された事実の中に前記認定の二の(1)の犯罪行為の記載がある場合は、これを特に犯罪行為として立件する手続(家庭裁判所調査官の立件報告、あるいは警察官の立件送致)を待つまでもなく、そのまま犯罪行為として審判の対象としても手続に違背はないものと考える。

(3)  よつて、当裁判所は、少年を犯罪少年としてその適正な処遇を図ることとしたが、調査、審判の結果によると少年は九歳時からさい銭盗、自転車盗等の非行歴があり、今年になつて、本件のほかにも友人のバイクで無免許運転をしたり、通行人から金員を恐喝していることをうかがうことができ、また昭和四六年三月に中学卒業後一定の職業に定着せず、家庭にも落ち着くことができない性向が見られたが、本事件後は、現在の職場に安定して勤務し、父親のいない少年の家庭において長男としての自己の立場を認識し母親の期待にそうべく努力していることが認められる。

しかしながら、審判の結果によると、少年の最近の生活は日当二、五〇〇円という高額の収入を得ながら、そのほとんどを衣類や友人との遊興に費消し、毎晩帰宅するのが遅く、外泊も多く、精神的には全くパースペクテイプのない生活を送つているようであつて、このまま放置すれば、再び非行を犯す危険性はかなり大きいものと言わざるを得ない。そこで少年に今後の展望を持たせ家庭内での自己の立場の自覚を一層深めさせるため、少年の相談相手ともなり、また少年が同一視できる適切な対象ともなり得る存在が必要であると考え、少年を保護観察に付し、保護司にその役割を期待することとした。

よつて、少年を、少年の住所地を管轄する大津保護観察所の保護観察に付することとし、少年法第二四条第一項第一号により主文のとおり決定する。

(裁判官 折田泰宏)

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